概説 |
物質が示す性質(物性)を決めているのは、主に物質内部にある電子です。たとえば、電気伝導性は電子が動きやすい状態にあるかどうかによって決まり、磁気的な性質(磁性)は電子が持つミクロな磁石がどのように整列するか、或いは磁場に対してどのような応答を示すかによって決まります。これらの性質は、しばしば温度や磁場、圧力などの外的環境を変えることによって変化します。特にある境界を境にして急激に状態が変わる現象を相転移と言いますが、中でも、温度を低温にしていくと突然電気抵抗がゼロになる超伝導状態への相転移は、研究者ならずとも多くの興味を引かれる現象です。最近では、超伝導の中には磁性と深い関係を持って発現するものがあることが分かってきました。 私たちは、主に磁性や超伝導に関する研究をしています。それらのメカニズムを明らかにするため、核磁気共鳴(NMR)というミクロな研究手法を用いていますが、必要に応じてマクロ測定(電気抵抗・磁化・構造解析(X線回折))や試料作製も行っています。 |
超伝導発現のメカニズム |
超伝導はフェルミ粒子である電子が対(Cooper対)を形成することによって生じます。その発現機構を明らかにする上でまず問題になるのは、負の電荷を持ち互いに斥力が働くはずの電子同士が、どのような仕組みによって対を成すのかです(引力の起源)。主に通常金属において生じる従来型と呼ばれる超伝導では電子と格子の間に働く相互作用(BCS機構)が引力の起源の役割を果たします。一方、高温超伝導体に代表されるようなd電子系、セリウム (Ce) やウラン (U) 化合物などの f 電子系、有機導体のようなp電子系化合物においては、電子同士の間に働く強い相関(*)が引力の起源になっているのではないかと考えられています。 (*) こうした物質群は強相関電子系と呼ばれ、物性物理の分野では最も精力的に研究されている分野の一つです。 |
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f電子系化合物 |
アクチノイド系化合物 |
d電子系化合物 |
室温で磁石に引き付けられることで知られる鉄、コバルト、ニッケルなどの遷移金属元素を構成元素として化合物を作ると、遷移金属元素の最外殻d電子が不対電子として安定することが多いため、その化合物は磁気的性質をもつことが多くなります。また、d電子は軌道が広がっているため、その電子は動きやすい特徴があります。動きやすくて磁気的性質をもつ電子が示す、磁気状態、超伝導など興味深く、この研究は日本が世界をリードしてきました。 ・遍歴電子磁性体の研究 |
p電子系化合物 |
・一次元有機導体(TMTSF)2Xの研究 |
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NMRとはNuclear Magnetic Resonance(核磁気共鳴)の略です。Nuclear(原子核の)とありますが、私たちはこの手法を物質内の電子状態に関するミクロな情報を得るために用いています。 ・NMRの原理 |