遍歴電子磁性体の研究


遍歴電子とは結晶中を動き回る電子、つまり電気伝導を担う電子です。そして、遍歴電子磁性体とは、その動き回る電子が磁性を担っている物質のことです。電子が止まっている(局在している)場合、それらの示すミクロな磁石は大きいと考えられますが、動き回っている(遍歴する)電子でも、局在電子のような磁気的性質を示す場合があります。この動いている電子のミクロな磁石に起因する磁気秩序や超伝導、強相関半導体などの興味深い性質を研究しています。


d電子系化合物超伝導体の研究
  d電子系化合物超伝導体の中よく知られてものとして、学生実験でもあつかわれている銅酸化物高温超伝導体があります。これは多くの超伝導体でみられる、電子と格子の相互作用(BCS機構)を起源として電子が対を作るのではなく、銅の3d電子同士に働く強い相関を起源としている新しいタイプの超伝導体と考えられています。私たちは酸化物ではない物質に着目して、d電子化合物超伝導体の引力機構がどのようなものであるか、また、常伝導での電子状態を研究しています。

Reference
Phys. Rev. Lett. 101, 126404 (2008) (Mo3Sb7)

狭いギャップをもつ半導体の研究 
  通常の半導体は反磁性*1を示しますが、ごくまれに大きな常磁性*2磁化*3を示す半導体があります。それらは狭いエネルギーギャップを持つことが特徴です。例えばFeSiFeSb2がそうです。これらのエネルギーギャップはFe3d電子の間の相互作用に起因すると考えられています。私たちはFeSb2の純良な単結晶を作製し、磁化、NQR測定により電子状態を研究しました。


Reference
Phys. Rev. B 76, 073203 (2007) (FeSb2)


*1 反磁性:物質に磁場をかけたとき、かけた磁場の向きとは反対に磁化が発生すること

*2 常磁性:物質に磁場をかけたとき、かけた磁場の向きと同じ方向に磁化が発生すること

*3 磁化:物質に磁場をかけたとき、物質が磁石のようになること。磁場をかけなくても、磁石である場合は、自発磁化をもつという。


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