研究の内容

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物性物理学の超伝導、磁性の分野で実験的な側面から研究を行っています。mK(ミリケルビン)という超低温の領域での研究が特色です。 一般向け解説も参照ください。

UPt3

重い電子系超伝導体であるUPt3は温度・磁場を変化させることによって3種類の超伝導状態(通称.A相,B相,C相)を示します。 それぞれの相では,超伝導の秩序変数が異なっています。 具体的な秩序変数については諸説ありますが,一例として,A相ではkab(5k2c-1), C相ではkbc(5k2c-1),またB相ではA相とC相が混ざった(kab+kbc)(5k2c-1)であると考えられています。 また、圧力印加によって新たな超伝導相が発現することが知られていますが、その相におけるギャップの対称性は未だ解明されていません。

超伝導ギャップのノード構造の研究手法の1つとして、バルク超伝導体への磁場の僅かな侵入量(数μm)の極低温下における温度依存性について調べる「磁場侵入長測定」があります。 当研究室では、超伝導量子干渉計(SQUID)を用いることでこの測定を行っています。 我々はUPt3の単結晶試料をピストンシリンダーセルに設置し、圧力を細かく変化させる(<約1.0GPa)ことによって、圧力印可に伴うUPt3の相の変化の詳細について明らかにすることを目指しています。



CePt3Si

空間反転対称性とは結晶内の座標r-rに変換したときに見かけの構造が変わらない性質を指します。 2004年に,この空間反転対称性の破れた重い電子系超伝導体CePt3Siが発見されました。 また、2009年には,同じく空間反転対称性の破れた超伝導体LaNiC2が自発磁化を示すことがμSR測定により報告され,空間反転対称性と同時に時間反転対称性も破れていることが明らかとなりました。

その後の研究から,CePt3Siの単結晶試料が,LaNiC2と同様に超伝導相内において自発磁化を示すことが明らかとなりました。 ここで,LaNiC2ではアニールされた試料が自発磁化を示すのに対し,CePt3Siではアニールされていないの試料が大きな自発磁化を示します。 この結果は,空間反転対称性の破れた超伝導による自発磁化だけでは説明できません。 そこで本研究では,CePt3Siの直流磁化測定による自発磁化,およびジョセフソン臨界電流測定のフラウンホーファーパターンから,自発磁化の機構について調べています。

2d_helium

極低温下でグラファイトのような結晶基板上にヘリウム原子を吸着させると,ヘリウムの二次元系が顕現します。 こうしたヘリウムの薄膜は理想的な二次元量子系と期待されており,ヘリウム原子間の相互作用と量子効果により,様々な量子状態の発現が比熱や中性子線回折などで報告されています。 近年では,ヘリウム4の二次元系では超流動性をもちながら,準長距離的な空間秩序をもつ超流動量子液晶(QLC)状態と考えられるような現象も報告されており,多くの関心を集めています。

これらの興味深い現象について構造解明手法としては中性子線回折からアプローチがされているものの、詳細な2次元構造は解明されていません。 そこで我々は,近年注目されている放射光を用いた表面X線回折法により,ヘリウムの二次元系について原子レベルまで構造を明らかにすることを目指しています。

thermal_expansion

 セリウム(Ce)などの希土類元素は,4f電子をもっています。 4f電子は,通常,希土類元素の原子核周りに良く局在しています。 しかし,いくつかの希土類金属間化合物では、4f電子が伝導電子と相互作用(近藤効果とRKKY相互作用)することにより遍歴性を獲得し,結晶内を自由に動き回れるようになります。 この時,伝導電子の有効質量が非磁性金属の100~1000倍にもなることから,これらの化合物は”重い電子系”と呼ばれています。

重い電子系化合物では,結晶の骨組みを成す4f電子が遍歴することに伴い,体積が急激に収縮することが知られています。 その一方で,重い電子状態の原因である近藤効果が発現した時の熱膨張の変化は未解明のままです。 そこで我々は,ストレインゲージを用いた熱膨張計を自作し,近藤効果を示すCe希釈系の熱膨張を測定することにより,近藤効果起因した熱膨張を明らかにすることを目指しています。

chiral

カイラル磁性体とは、結晶構造のカイラリティに由来した磁気秩序構造をもつ磁性体のことです。 カイラル磁性体では,ジャロシンスキー・守谷(DM)相互作用と呼ばれる,隣り合ったスピンを垂直に並べようとする相互作用がはたらきます。 この特異な相互作用のために,カイラル磁性体は「スキルミオン」や「カイラルソリトン格子」,「電気磁気効果」などの多彩な物性の舞台となっています。 このうち,電気磁気効果とは,電場の印加により磁化が変化したり,逆に磁場の印加により物質の電気分極が変化する現象のことです。 電気磁気効果による磁化や電気分極の変化は,物質の磁気構造に強く依存します。 現在、研究対象としているL-酒石酸銅では,どんな磁気構造であるかが未解明です。 我々は,0.1 K程度までの直流磁化の異方性を測定することによって,どのような磁気構造であるかを調べています。