面白い質問


中学生(詳細) からこんな質問がありました。 素朴だけどとてもよい質問だと数学者の我々 も感心させられました。最近、数学のきらい な学生さん達が増えているため憂慮させられて いるので、なんとなく心強く感じられました。 このような素朴な疑問を持つ ことはとても大切だし、何故、数学者が「数学」 を面白いと思って興味を持つのかわかっても らえるんじゃあないかと思います。疑問というも のは、 素朴で自分が心の底から 本当に不思議と思えるものほど 強い生命力を持っています。そしてさらに 勉強を進めて、より深い本質へ迫っていく時 のとっかかりになります。そしてその答えが わかって納得のいった時の喜びはひとしおです。


質問:円周率の数字はどのように並んでいるのでしょうか?
答:

数千年の昔から、多くの人たちが円周率に興 味を持って、その本当の値を知ろうと努力し しました。中には、その計算に一生をかけた 人もいます。 とりあえず1000桁ほど岩波の「数学辞典」 (第三版)P.1434から抜き出してみましょう。 (この数字の並びから 音楽を作る こともできるそうです)


3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288 41971 69399 37510
58209 74944 59230 78164 06286 20899 86280 34825 34211 70679
82148 08651 32823 06647 09384 46095 50582 23172 53594 08128
48111 74502 84102 70193 85211 05559 64462 29489 54930 38196
44288 10975 66593 34461 28475 64823 37867 83165 27120 19091
45648 56692 34603 48610 45432 66482 13393 60726 02491 41273
72458 70066 06315 58817 48815 20920 96282 92540 91715 36436
78925 90360 01133 05305 48820 46652 13841 46951 94151 16094
33057 27036 57595 91953 09218 61173 81932 61179 31051 18548
07446 23799 62749 56735 18857 52724 89122 79381 83011 94912
98336 73362 44065 66430 86021 39494 63952 24737 19070 21798
60943 70277 05392 17176 29317 67523 84674 81846 76694 05132
00056 81271 45263 56082 77857 71342 75778 96091 73637 17872
14684 40901 22495 34301 46549 58537 10507 92279 68925 89235
42019 95611 21290 21960 86403 44181 59813 62977 47713 09960
51870 72113 49999 99837 29780 49951 05973 17328 16096 31859
50244 59455 34690 83026 42522 30825 33446 85035 26193 11881
71010 00313 78387 52886 58753 32083 81420 61717 76691 47303
59825 34904 28755 46873 11595 62863 88235 37875 93751 95778
18577 80532 17122 68066 13001 92787 66111 95909 21642 01989


まるで、デタラメのように並んでいますね。あの美しい円に関係ある のだから、並び方に何か美しい規則があるのでしょうか?例えば

1/7=0.142857142857142857.....

は6桁ごとに142857が繰り返されていますね?ところが

1/17=0.058823529.......

の場合はイコールの右側(電卓ですぐ計算できる部分だけ表示)は一見 するとまるでデタラメのようですが、 実は16桁ごとに同じものが現れ(詳細) ます(このような現象をとりあえず 周期性と読んでおきましょう)。現在は コンピュータも発達して、円周率の100万桁ぐらいは造作もなく計算し てしまいますが、例えば100兆桁ぐらいの周期性はないのでしょうか? 急いでパソコンを買ってきて、とりあえず1000兆桁ぐらい計算させて みたら、実は100兆桁ごとに周期性をもつことを発見!そしてで初めて 円周率の周期性を発見したことで あなたはノーベル賞を受賞!!

なんか、このように考えると夜もおちおち寝ていられなくなりそうですね?

実はよく考えてみると、この「周期性をもつこと」は分子、分母が整数で あるような「分数で現されること」と同じこと(詳細) が示せます。 そして、円周率はこのように分数で表すことは 絶対に不可能 なことが示せ ちゃうのです(1761年Lambert)。ああ残念!!!

中学3年ぐらいになると、多分教科書に2の平方根は分数では表せないこ が書いてあると思うのですが、じゃあ、同じようにして円周率についても 示せるのでしょうか?2の平方根の場合は、その鍵となるのは2乗して2 ということ。つまり x^2 - 2 = 0 という方程式(x^2はxの2乗の意味) の答えが2の平方根という事実でした。でも円周率はもっとたちが悪くて このような整数を係数とする方程式の答えにも絶対にならない(このような 数を超越数と呼びます)こと(1882年Lindemann) もわかるのです。

それにしても一体全体、本当の正確な値を誰も知らないような円周率をど うやって扱えばこのようなことがわかるのでしょうか?

実は円周率は分数そのものでは表せないものの、分数を無限個もってきて 足しあわせると表すことができる(以下の式)のです。

円周率=4 - (4/3) + (4/5) - (4/7) + (4/9) - (4/11) + (4/13)......

ここで、分子はいつも4で分母は奇数を順に小さいほうから並べ、+−の 符号は交代させながら足しあわせていきます。このような事実はニュートン やライプニッツが発見した「微分積分」という数学の一分野で得られたTaylor 展開という関数を無限の多項式で表す手法から得られます。中学で習うy=x^2 のようなものは関数のなかでも(有限の)多項式で表せる非常に簡単なものの 一種です。円周率を扱うのには本当に無限でないと表せないような逆三角関 数と呼ばれるものの一種である Arctan (詳細) を使います。このArctanを無限
の多項式で表すと次のようになります。

Arctan(x)= x - (1/3)x^3 + (1/5)x^5 - (1/7)x^7.....

和を取るときは符号が交代しながら行います。係数は分子が1で分母が奇数を 小さいほうから順に並べたものになっています。そして逆三角関数が名前からも 想像がつくように三角形に由来するものであることを使うとその図形的な意味から Arctan(1)=(円周率)/4

ということがわかり、結局、上で述べた円周率の表示が得られるわけです。詳しい ことを知りたい人は 岩波書店「解析概論」高木貞治著(ISBN4-00-005171-7 C3041 P2600E) 2600円 をご覧ください。対象は大学1ー2年なので中学生にはかなり難しいと思います が、最初はわからなくてもよいからボーとあれこれ眺めて 憧れ をつのらせておくと、段々 学校での勉強が進むにつれて、ある日突然稲妻のように 「憧れ」の閃光 心の大空 を突き 抜け、まるで爆発したその「憧れ」の爆風に突き動かされるかのようにドンドンわかる ようになります。それまで待てないという人は無鉄砲でもトライしてみてください。 まるで 装備もなしに一人でエベレストに登るようなもの ですが、大丈夫死にません!!

人生がつまんなくて死にたいなんて思っているあなた! どうせだからこんな無茶苦茶やって ごらんなさい。できなくたってアタリマエなんだからと思えば肩の力も抜けるし、そうや って無茶苦茶やっている自分があまりにもバカに思えてきて、しまいに自分がとてもカワイイ と思えてきます。エッ?自分がカワイイわけないって?別に人にいう必要はないんですよ。 自分でコッソリそう思っていたらいいんです。


遊佐のHomePageへ