神々の創りたまいし遺跡の群れ

[リーマン面の理論]

複素関数論の延長線上にありますが、一方で、ここ をさらに突き進むと複素多様体論へ到るといった地点でもあります。複素 関数を調ベていくと、だんだんそれが人間が考えだしたものではなく、 まるで人類がこの世に生れるはるか以前から神の手によって創造され存在 し続けているもののような気さえしてきます。特に面白いのは関数 の定義域が人間の思うままに指定できず、数学的自然に支配されているが ごとく、非常に強烈な幾何学的性質を帯びてくることです。そこで解析的 な考察と幾何学的な考察を同時に進行させた 『リーマン面』 という 概念がでてきます。中でもコンパクトという性質をもつものは、実は代数 曲線(1次元の代数多様体) の別の姿でもあり、それらの根本的性質を支配する量として 『種数』 というものがあります。面白いことに、この『種数』は解析的な計算を通して得ら れる量と、幾何学的な計算、もしくは目で見える形状の特徴から得られる 量とが完全に一致するのです。なかでも種数が1の代数 曲線は、 『楕円曲線』 と呼ば れ、「楕円積分論」や「楕円関数論」などといった、解析でも比較的高度で しかも応用性も十分ある理論の背景になっています。


[不動点定理の周辺...広くは位相幾何学]

三角も四角も区別しないような 一見大らかな、柔らかい物の見方から出発して、「図形のつながりぐあい」 の本質を追求する領域。「長さ」も「角度」(中学や高校で はこういったものを基盤に図形を調ベていたはず)も役に立たないよう な対象を どうやって 調べるのか想像しただけでも面白い。その一つの帰結として、 地球上において少なくとも2カ所以上風の吹かない地点があるといった 愉快な定理もたくさん出てきます。以前この領域に属する話題のひとつを 教えていただいたある先生が、講義で黒板におびただしい数の不思議な絵を 描いていました。その絵を写して いくうちに、最後に(聴衆のだれひとりとして)どうしても写せない 複雑な1つの絵が出てきて、 その先生の幾何的な直観の鋭さに感服した思い出があります。


[エルゴード理論の周辺...広くは確率論]

非常にたくさんの構成因子から なる系において、その一つ、ーつについてはある瞬間に何がおこるか正確 に予測することは一般にできません。しかし エルゴード理論にみられるように 非常にうまく仮定を設定すると、 ある瞬間における全体としての挙動の傾向と個々の構成因子を時間にしたがって 追跡した挙動の傾向が一致するという結果が導かれます。それゆえに自然界 の現象の予測にも応用ができる理論となっています。 確率論はブラウン運動や熱伝導の理論とも関係を持っていますが、 さらに最近では、従来応用数学とかけはなれている と考えられてきた「多様体論」へも応用されつつあります。


[Fourier解析、擬微分作用素及び超関数]

物理などを勉強すると、「微分方程式」が 自然現象の理解に如何に重要な役割を演じているかがよくわか ります。しかし、長年のしかも多数の優れた先人達の膨大な努力・研究 にもかかわらず、偏微分方程式は依然としてその完全な一般論の成立を 拒み続けており、広大な未開の地を残しています。そういった中で、これらは (特に比較的性質の良い「線形偏微分方程式」について)かなりの一般的理解を 持たらす強力な道具であり、しかも新大陸の地を踏みしめる 時のような期待感を抱かせる魅力にあふれた理論です。 このうちFourier解析では Fourier変換 というものによって「この世」と 「あの世」を結び付け、この世での「微分」があの世では 「多項式を掛ける」という操作に対応することを基盤にして研究を進めます。 この事実はあの世での「多項式の逆数を掛ける」操作に対応するこの世での 操作 「擬微分作用素」 を研究することの重要性を見せてくれます。 また「関数」のなかには微分できないものがたくさんあり、 それが一般論を構成する上でも障害のひとつになりますが 世界を広げて 「超関数」 の世界で考えるとそれらの微分できない関数が「微分できる」 ようになったりします。こうして、二次方程式を複素数 の世界で考えることで 風通しがよくなったのと同様のことがここでも行えるようになります。 ただし「擬微分作用素」にせよ「超関数」にせよ対象自身は「複素数」 に比べてはるかに複雑なので、これらの手段で今までの 難しい問題が一挙に解決するわけではありません。

新大陸に立つ


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