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兵庫県立大学 ピコバイオロジー研究所

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研究成果2

X線自由電子レーザーによるX線無損傷構造解析


 要旨:大きな結晶を用いたSF-ROX法によって1.95Å分解能で構造決定を行い、過酸化物が活性中心のFeとCuの両方に配位していることを明らかにし、長年の議論に終止符を打った。


 X線自由電子レーザー(XFEL)施設であるSACLAでは強力なX線を10 fsという極めて短いパルスのX線を発生することができる。この新しいXFELは反応過程を直接観測する高速時分割構造解析に道を拓くX線である。複合体IVでその反応過程を観測するために準備実験を進めている。高分解能の回折像が得られるのかどうか、回折強度を見積もることができるか否かなど幾つかの克服すべき問題がある。それらの問題点を克服する手始めに、チトクロム酸化酵素(複合体IV)のX線無損傷構造解析を行った。

 チトクロム酸化酵素をはじめとするヘム蛋白質は、X線照射によってヘム鉄が還元されることは避けられない。そのためにX線結晶構造解析によって得られた構造はX線損傷を受けた構造の可能性がある。X線照射後10 fs では原子核の移動は起らない。従って10 fs のパルスX線によって回折強度を収集すればX線無損傷のデータが得られる。一方、強力なXFELを結晶に照射すると、瞬時に結晶全体にその影響が広がると考えられていた。実際にそうした損傷が100Kでも起るか否かを酸化型チトクロム酸化酵素の結晶を用いて確認実験をSACLAで行った。その結果、1~2μmの大きさのX線では、影響が回折強度の減衰として表れるのは半径10μmの範囲であった。そこで50μm間隔で結晶にX線を照射する方法を採用した。

 通常のX線回折強度は回折が生じる角度領域を連続して走査し、その積分値を求めることによって計測される。10 fsのパルス光を照射する間に走査することは出来ない。そこで、0.10°間隔で測定して、擬似的な連続走査と見なして強度を見積ることによって、1.9Å回折強度データ収集を行った。

 構造解析の結果、活性中心にはX線損傷の影響を受けていない過酸化物(O-O)がFeとCuを橋渡している構造を確認した。このことによって長年懸案であった、完全酸化型の構造についての論争に終止符を打つことができた(図)。また、極低温での大きな結晶を用いたX線自由電子レーザーによるX線無損傷高分解能結晶構造解析法を確立することが出来た。

論文:Shimada A, Kubo M, Baba S, Yamashita K, Hirata K, Ueno G, Nomura T, Kimura T, Shinzawa-Itoh K, Baba J, Hatano K, Eto Y, Miyamoto A, Murakami H, Kumasaka T, Owada S, Tono K, Yabashi M, Yamaguchi Y, Yanagisawa S, Sakaguchi M, Ogura T, Komiya R, Yan J, Yamashita E, Yamamoto M, Ago H, Yoshikawa S, Tsukihara T., A nanosecond time-resolved XFEL analysis of structural changes associated with CO release from cytochrome c oxidase., Sci Adv. 2017 Jul 14;3(7).






タンパク質結晶成長機構タンパク質結晶成長機構

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