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兵庫県立大学 ピコバイオロジー研究所

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研究目標と研究成果の概要

研究目標と研究成果の概要

     
 ミトコンドリア呼吸鎖では、常温で高いエネルギー効率でエネルギー変換が行われる。このエネルギー変換の“正確さ・高効率”をもたらす仕組みを解明することが研究の究極の目標である。ミトコンドリア呼吸鎖の中でも互いに連携して機能している可能性の高いNADHユビキノン還元酵素(複合体I)、ユビキノール-チトクロムc還元酵素(複合体III)及びチトクロム酸化酵素(複合体IV)を対象にして研究を実施した。

 チトクロムc酸化酵素(CcO)の研究では、プロトンポンプ機構については1998にH-パス説を提案して以来、激しい議論が続いている。各種中間体の高分解能構造解析やXFELによる時分割結晶構造解析などによって、プロトンポンプの合理的な仕組みが明らかになってきた。
 CcOの精密結晶構造解析では、酸化型1.5Å、還元型1.6Åの構造解析、酸化型のXFEL無損傷構造解析、CO結合還元型の光励起時分割構造解析、中間体類似体やpHなどが異なる結晶化条件での高分解能構造解析を行った。CcOは反応サイクル中で構造変化を起こす領域は2つのヘムを含む分子内部の極めて限られていて、変化の大きさも微小である。また、その変化は酸性側pH5.7から塩基性側pH8.0まで同じであり、正確な構造変化によって機能する蛋白質と言える。

プロトンが能動輸送されるH-パスはマトリックス側(N側)から膜間腔側(P側)まで内膜を貫いていて、N側は水が動くことができる水チャネル、P側は水素結合のリレーがある水素結合ネットワークで構成されている。水チャネルが水素結合ネットワークに連結する手前にゲートがあり、そのゲートは酸素還元中心を構成するヘムa3がシフトすることでヘリックスXが構造変化をさせることによって開閉される。酸素還元中心に酸素分子が結合する以前ではゲートは開いている。酸素分子が酸素還元中心のCuBに結合した段階でヘムa3のシフトが起こり、ゲートが閉じる。その後、酸素分子はFea3側に移行して酸素還元反応サイクルが始動する。

 水チャネルのゲートの水素結合ネットワーク側にはプロトンが蓄積されるプールがあり、そのプールは20数箇所の水部位とプロトンを受容できる多くの官能基及びMgイオンで構成されていて、分子内部で外部と隔離されている。ここに水チャネルのゲートが開いている時に4プロトンが蓄積される。反応サイクル中でチトクロムc(Cyt.c)からCuA,ヘムaを経てヘムa3に電子が4回輸送される。その度に1プロトンずつプロトンプールから水素結合ネットワークに供給される。CuA,ヘムaから電子がヘムa3に移行するたびにプロトンプールの構造変化が起こり、プロトンを水素結合ネットワークに供給する。続いてFe2+からFe3+になったヘムaの電荷との反発によってプロトンは水素結合ネットワークのP側に押し上げられる(反対側は閉じている)。その際にCuA還元型から酸化型に変化して水素結合ネットワークのゲートが開き、プロトンがP側に能動輸送される。一連の研究によって少なくともミトコンドリアのCcOについてはH-パス説に従ったプロトンポンプが受け入れられる所までは来た。

 呼吸鎖超複合体では活性の高い試料を調製し、結晶化条件を検討している。結晶化中の超複合体の劣化が深刻な課題であり、新たに脂質メソフェーズ法による系統的な結晶化条件検索を開始した。Cyt.c-CcO複合体の構造決定は、2次元結晶作成から始め、新しい界面活性剤を使用して、高いpH領域で複合体形成が起こることを確認した。そのことを拠り所に3次元結晶化を行い、2.0Å分解能で構造決定した。その結果、1970年代にCyt.cの化学修飾に基づいたCcOとの結合部位と矛盾しない部位がCcOと相互作用していた。Cyt.cのヘムからCcOのCuAへの合理的な電子伝達経路も同定することができた。興味深いことに、Cyt.cとCcOの相互作用は長い親水性側鎖が関わっているが疎水性アミノ酸の関与は皆無である。蛋白質間は大きく離れ、両者の接触表面積も極端に少ない。両者の会合の際には表面の水を保持したままで会合する。この相互作用様式はこれまでにない蛋白質間相互作用であり、“Soft and Specific Interaction”と呼ぶことにした。この相互作用によって迅速な解離会合と効率の良い電子伝達が行われていると考えられる。

 構造解析技術開発では、膜蛋白質の電子顕微鏡像のコントラストを向上させる方法(GraDeR法)を開発して、膜蛋白質の単粒子構造解析の可能性を向上させる画期な技術として注目されている。XFELによる大きな結晶を使ったSF-ROX法を開発し、さらにこの方法を適用した光励起による時分割XFEL結晶構造解析法も開発した。これらの方法を用いて酸化型CcOの活性中心のX線無損傷構造解析を行い長年の議論に終止符を打つとともに、CO結合CcOのCO光解離のナノ秒時分割構造解析に成功して酸素結合に連動した水チャネルの開閉機構を明らかにした。

     



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