兵庫県立大学 大学院理学研究科 量子物性学分野

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解説 -核共鳴散乱-

まず「核共鳴散乱分光法」について説明します。放射性物質からのγ線によって原子核のエネルギーを共鳴励起して、その励起された原子核から放出されるγ線や内部転換電子線また特性X線などを測定することで物質の電子状態を調べることができます。これを核共鳴散乱法といいます。

図1は原子核の共鳴吸収を表しています。このときもγ線を運動量pを持った粒子であると考えます。a)図では核からγ線が放出しています。すると運動量保存則から核はγ線放出方向と反対側に反作用を受けます。これを反跳と言います。自らの質量の一部を後方に射出してその反作用で進むロケットのようですね。当然エネルギー保存則から核の反跳に使ったエネルギーR分だけ減少したγ線が放出されます。反対のことがb)図の吸収のときも起こります。a)図とb)図で太線の長さが違うために普通には共鳴吸収が起こりません。ただしある条件がそろうと、ある確率だけ共鳴吸収が起こります。つまり原子核が固体中に束縛されて反跳が起こっていないのです。これをメスバウアー効果(無反跳γ線共鳴吸収)と言います。

図1. 点線は無反跳吸収の場合

限られた条件でないと共鳴吸収を起こさないので、そこから得られる吸収スペクトルは非常にシャープです。それは原子核の回りの電子とのごくわずかな相互作用も見分けることを意味します。少し原子核の話をします。自分が原子核になったつもりで考えてみて下さい。原子核は陽子(+)と中性子でできています(素粒子は別途参照)。回りにいる電子(-)の様子が変わると受ける磁場の強さが変わってきます。当然エネルギー的に安定になりたいので自分の形を変えなければなりません。①アイソマーシフト またスピン核運動量(I)を持っていれば外からの磁場でエネルギー準位が分裂を起こします。②ゼーマン分裂 さらに核自身の電荷分布は球対称ではないので、結晶中に電場勾配があってもエネルギー準位が分裂します。③核四極相互作用

図2. 原子核のゼーマン分裂とスペクトル

近年ではγ線の代わりにSPring-8など放射光を用いた高エネルギーX線で原子核を励起して行う研究が進められています。放射光利用には①エネルギーが自由に選べること②すごく細いビームを使って小さな試料の分析ができること③超高圧・極低温などの特殊な条件で実験ができることなどの利点があります。

図3. Fe2Pの磁気相転移(Mn2P型磁気構造モデル)
超高圧では結晶中の「磁性」が変わっていることが分かります。

量子物性学講座では○○!! {PF:入射X線ビームのエネルギーをmeV単位で変えながらフォノン・スペクトルを測定する核共鳴非弾性散乱法による研究}