兵庫県立大学 大学院理学研究科 量子物性学分野

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解説 -コンプトン散乱-

まず「コンプトン散乱」について説明します。X線を結晶に照射すると、 X 線が結晶中の電子に衝突して散乱されると考えられます。ちょうどビリヤードの衝突と似ていますね。X線を運動量p、エネルギーEを持った粒子と考えます。すると散乱角θによって入射X線より⊿E=E0-E1だけ低いエネルギーの散乱X線が観測されます。これをコンプトン散乱といいます。mは電子静止質量、cは光速です。

そして運動量とエネルギー保存則から

が得られます。ここでポイントとなるのが右辺第二項です。これは基底状態の電子の運動量と比例関係にあります。つまりコンプトン散乱の強度分布測定が電子の運動量空間での確立分布を与えるのです!!

つい10年前までは測定に特性X線やγ線が用いられていました。それがSPring-8の誕生でX線領域に高強度の放射光が得られるようになり、より詳しい電子の状態がわかるようになりました。

さぁそこで量子物性学講座の「磁気コンプトン散乱」研究です。コンプトン散乱との違いは「磁性」の素、電子スピン(s)を観測できることです。「磁性」の正体である磁気モーメントはスピン(s)と軌道磁気モーメント(l)の和からなりますが、物質の磁性機構は非常に複雑です。このスピン(s)を選択的に測定できれば将来自由に「磁性」をコントロールできるかもしれません。

巨大磁気抵抗効果物質La2-2xSr1+2xMn2O7(x=0.35)の(001)面上に投影した2次元スピン運動量密度分布