21世紀の新技術と現代数学

−大局を扱う理論と技術−
「多様体論」と「コホモロジー論」

(文責)遊佐 毅


現代の純粋数学は無用の長物か?

よく、現代の数学、特に純粋数学は難しいばかりで応用がないとか、 はては極論として「技術者は19世紀までの数学さえわかっていれば 十分だ」とか言われることさえあります。

かつては工学的には応用がないと思われていた物理の「相対性理論」 や「量子力学」も今や先端技術において、徐々にその応用分野を広げ つつあります。実はそれと同様に次の21世紀において広範にわたって 科学全般に革命的にしかも深く影響を及ぼすであろうと予想される 新しい類の理論や技術を現代の純粋数学は育みつつあります。

何が革新的な技術をもたらすか?

今世紀後半、純粋数学において最も中心を占めてきた話題を標語的に 述べるなら 「局所から大局へ」 となります。すなわち、「局所的に 見たのでは判別できないような構造物の大局的な状況の違いをどう やって取り扱い、研究していくか?」ということです。

それに関して、幾何学を発祥の地として、 「多様体論」 および 「コホモロジー論」 と呼ばれる理論と技術が開発され、現在では それらに解析や代数、そして物理までもが大きな影響を受けつつ あります。その理論と技術は、一旦ある分野で応用可能ということが 知られると、たちまちその分野において永年の未解決問題とされていた ものを続々と解決してしまうなど、まさに大革命を起こし続けてき ました。

最近、350年ぶりに解決された 「フェルマー予想」 ですらも その例外ではありません。その解決の場面ではむしろ空気のごとく あたりまえに「楕円曲線」と呼ばれる「多様体」や、 それらを調べる「コホモロジー」の技術が使われているのです。

「多様体」 とは曲線や曲面のような「図形」の概念を非常に 一般に拡張したものです。非常に数多くの種類があり、中には 一見およそ図形とは思えないようなものまで含まれています。 例えば「整数」を考察する際には、ポツポツと点が一直線に 並んだ「図形」としてではなく、Spec(Z) と呼ばれる銀河のような 構造をした「多様体」として考えるとよいことが知られています。 ここでは、「多様体」とは、おおざっぱに「比較的単純な局所的対象を、 有機的に組み合わせることで出来上がった構造物」と考えるとよいでしょう。

「コホモロジー論」 はそういった有機的な構造をもつ「多様体」 の局所的な研究だけでは捕らえきれない、「多様体」全体として初めて 意味をなすような情報を捕らえるべく開発された数学的な技術 ということができるでしょう。「コホモロジー」もまた非常に 数多くの種類があります。

注: ここでは新しい言葉をたくさん 導入することで起きる混乱を避ける目的でかなりおおざっぱな言葉使い をしています。)


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