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Theoretical Physics I

研究報告report

1.低次元磁性体の新奇量子現象

量子効果の強い低次元磁性体においては、いくら温度を下げても、従来の長距離秩序が生じずに、さまざまな新奇量子現象が起きることが知られている。高温超伝導の起源として提唱された量子スピン液体、従来の長距離秩序と量子スピン液体の中間とも言うべきスピンネマティック相、対称性に守られたトポロジカル相などがあげられる。本研究グループでは、いくつかの磁気異方性やスピンフラストレーションのある低次元磁性体の磁化過程における、新しいメカニズムによるスピンネマティック相や、磁場誘起スピンギャップ(磁化プラトー)相などについて、大規模数値シミュレーションにより理論予測し、量子ビームによる観測法を検討している。



2.数大規模数値シミュレーションに基づく量子スピン模型の理論的研究

量子スピン模型は絶縁体磁性を記述する模型として、これまでに多くの研究が行われている。しかしながら、この系は相互作用の効果が本質的であるために、数学的な厳密解が得られるのはごく限られた場合だけで、一般には依然として最も難しい多体問題の一つである。そこで、相互作用を近似しない直接数値計算によって、近似に依らない知見を得ることは非常に重要である。そのような直接数値計算の一つとして、ランチョス法に基づく数値的厳密対角化法が知られている。その計算の規模は、原子数に関して指数関数的に増大するため、使用する計算機の資源量に応じた小さい系しか取り扱えない。この欠点を克服して出来る限り大きなシステムサイズを取り扱う方法の一つとして、単一計算ノードを超えて並列計算を可能な限り大規模に実行することが考えられる。そのような計算プログラムで、高速な実行速度が実現できるものを開発することは一般に困難であるが、我々は量子スピン模型についてそのような並列プログラムを開発し、その物性解明に活用している。特に様々なフラストレーションを有する格子形の上のハイゼンベルク反強磁性体の性質を数値的に調べてきた。その年度に利用できるスーパーコンピュータのうち最適なものを選び、このプログラムをそのようなスパコンで実行することにより、様々な成果をあげている。2024年度も、「富岳」の継続利用で大規模並列計算を実施し、量子ハイゼンベルク模型の諸現象の解明に資する数値計算で量子スピン模型の性質解明を進めた。特に、シャストリー・サザーランド格子上のハイゼンベルク反強磁性体で構成スピンがS=1S=3/2の場合の基底状態を明らかにした。S=1/2の場合には、過去の様々な研究で調べられ、直交ダイマーが強いときのダイマー相と正方格子を構成する相互作用が強いときのネール秩序相の間に中間領域が広がっていることが知られていた。我々は、S=1S=3/2の場合のダイマー相とネール秩序相の端に相当する相互作用比をそれぞれ特定した。これによりS=1S=3/2の場合にも両相の間に中間領域が広がっていることが判明し、フラストレート磁性体の基盤となる成果となった。


3.銅酸化物高温超伝導の理論的研究

銅酸化物高温超伝導体の超伝導発現機構においては、スピン間に働く反強磁性交換相互作用に起因した量子スピン液体が重要な役割を果たすことが知られている。このスピン間の相互作用を取り入れた電子系の理論模型に対する数値シミュレーションを用いて、擬ギャップ現象・電荷ストライプ現象等のエキゾティックな現象のメカニズムを理論的に研究している。


数理解析学講座


研究棟736号室