学部4年生からは講座(研究室)に所属し、これまでの講義中心の学生生活とは一味違った生活が始まります。卒業研究をはじめとして「研究」という言葉が身近に感じられるようになり、満足のいく研究を成し遂げるために、研究室内の教員・先輩・後輩を含めた少人数ながらもチームとの密接な協力関係を築くことになるでしょう。理系学部で学ぶべきことの多くが、ここからの研究生活に詰まっているように思います。
私達の研究グループでは、物質が示す特異な磁性や電気的性質の機構を解明するために、それを担う電子の状態を実験的に(主にはNMR(*)を用いて)明らかにする研究を行っています。日々の研究活動の中での面白さは、まずは研究の内容を良く理解し、前向きに取り組むことから生まれます。研究室の中は、良い意味でも悪い意味でも改良すべきことに溢れています。研究室に所属して直ぐに独自性を出すことは無理でも、研究に慣れてくると、4年生であっても自分なりの工夫に考えが至ることでしょう。初めは些細なことでも、そうした経験が蓄積され、しまいに世界初のデータに結びついたときには達成感が得られるに違いありません。また、得られたデータを解釈するためにあれこれ考え抜くことも、研究における重要なプロセスとなります。そのために不可欠なのは、教員や同僚とよく話し合いを持つことです。自分のデータをもとに何度も図面を作り直し、試行錯誤しながら考えを深める経験は、普段の講義では得難い、しかし社会に出てからも大いに役に立つ能力を身につける絶好のトレーニングとなります。さらに、そのプロセスがフィードバックされて、自分が行っている研究の位置づけがより明確になり、新たな熱意にもつながります。
別の角度から、研究の面白さについてひと言。教科書の上では、難しくてなかなか理解できない量子力学。しかし、その世界は日常の生活では実感できない謎めいたもので、科学の最先端にある重要な概念であることは何となくでも知っていますね。私達の研究で主に使うNMR(*)測定では、この量子力学上の現象を直接的に観測し、例えばそれによって得られたスペクトルデータの多くは、学部の量子力学の講義で学ぶ程度の知識でかなり正確に再現することができます。従って、机上の学習だけでは理解しにくい事柄も、自らが観測したデータを解析するという具体的かつ思い入れのある実例があれば、自然と理解が進むのです。みなさんにも、そのような有意義な経験を通して、科学の新しい世界を理解する楽しさを知り、できればそこに足跡を残す野心を持ってもらえたらと思います。