回転電場に曝された細胞は分極し,その分極電荷と外部の回転電場の静電相互作用の結果,細胞に回転力が作用しその場で細胞は回転します.この現象を電気回転といいます.細胞の回転速度は回転電場の大きさや溶液の導電率に加えて,細胞のサイズと細胞の電気特性(細胞膜容量と細胞質導電率)に依存します.細胞の回転速度の計測だけで,細胞の種類の識別や薬剤への応答性が評価できます.電気回転法に基づく細胞への染色や破砕など煩雑な前処理不要な,簡便・迅速・小型な細胞検査装置の実現を目指しています.
この電極チップを用いて,化学物質を添加した際の細胞の応答を回転速度の減少として,細胞への染色などの前処理なしに検出しました.化学物質としてIonomycinを用いました.Ionomycinは細胞内へCa2+流入させる作用があります.細胞内のCa2+の増加に伴い,複数の細胞内シグナル伝達が活性化され,細胞膜の表面粗さが増加します(左図).その結果,細胞外の溶液と接触する細胞膜の面積が増加して細胞膜容量の増加します.この細胞膜容量の増加を回転速度の減少として検出できることを明らかにしました.
左の図は,回転速度の時間変化を示しています.細胞を回転させた周波数は300 kHzです.Ionomycinを添加すると細胞の回転速度は減少しました(測定周波数を50
kHzにすると,膜容量の増加によって回転速度は増加しました).電気回転法は電極チップに細胞懸濁液を滴下し数分静置して交流電圧を印加するだけで細胞を評価でき,簡便で迅速です.
一部の受容体タンパク質は,標的化合物質との結合によって細胞内のCa2+濃度を増加させます.この受容体タンパク質を組み込んだ人工細胞の作製作製によって,回転速度を指標として受容体と結合する薬剤や化学物質を検出する細胞センサへの開発にも取り組んでいます.
電気回転計測の最大の特徴は細胞の回転運動の観察だけで細胞の種類や状態を推定できる点です.しかし細胞の回転運動を観察するには高価でサイズが大きな光学顕微鏡が必要です.そこで,電気回転計測を組み込んだ電気回転計測の小型化・低コスト化のために,イメージセンサをベースにした顕微観察技術を持つスタートアップ企業との共同研究を進めています.
A6サイズ程度のプロトタイプ(W120 mm, D 80 mm, H 60 mm,図右)を試作し,大学見本市2023(JST主催)へ出展しました.また,回転速度の算出の高速化と精度向上のために機械学習を取り入れた解析アルゴリズムの開発にも取り組んでいます.
本研究開発事業の一部はオートレースの補助を受けて実施した事業です.
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