研究テーマ

3. X線屈折コントラストイメージングによる生体の動的観察

 現在の物理学、生物学、医学など、さまざまな分野でX線撮像技術は大きな役割を担っている。しかしながらレントゲン撮影で代表される吸収コントラスト像では、物質の吸収係数の差が小さい場合、鮮明な像を得ることが困難である。また反対に鮮明な像を得るためにはある程度のX線吸収量が必要で、この場合被写体の放射線被曝量が問題になることが多い。一方最近注目を浴びている、屈折コントラストによるイメージング技術は、その原理の違いから吸収がほとんどない場合でも、その境界の微小な密度差による屈折で、鮮明な像を得ることが可能である(原理の説明図)。
  これまでにSPring-8の兵庫県ビームライン(BL24XU)において、非対称反射を水平・垂直両方向に各2回繰り返す結晶光学系を構築し、視野が広く極めて平行性の高いX線ビームを形成し、昆虫、蛙、マウス等の実時間観察に成功している(Y. Kagoshima et al., Jpn. J. Appl. Phys. 38 (1999) L470-L472.)。これらのX線像は従来のレントゲン撮影とは比較にならないほど鮮明なものであり、本手法の有用性が示された。今後は空間分解能の向上、コントラスト生成メカニズムの研究、顕微鏡や医学診断法としての実用性の検討等を進めていく。ダンゴ虫の動画(GIFアニメ、748KB)とカエルの肺の動画(GIFアニメ、1MB)、バッタ頭部の動画(aviファイル、1.1MB、約7秒:[北海道大学 片桐千仭氏との共同研究])。
 一方、屈折コントラストイメージングは、必ずしも放射光を必要としない。試料中の境界における微小な密度差による屈折が検出できるほど光源の大きさが十分に小さければ、原理的に屈折コントラストイメージングが可能となる。本講座では、実験室の微小焦点X線光源を用いて、屈折コントラストイメージングの実験も行っている(サンプル画像:蝶の頭部のX線写真)。