研究テーマ

1. X線顕微鏡の開発とその応用研究(篭島・高山・高野*Grの研究成果、*現東北大)

 物質、生体、プラズマあるいは天体における構造や生起する現象を原子レベルで解明するには、軟X線から硬X線領域での空間的、エネルギー的、時間的に高い分解能による計測が不可欠である。それには高性能のX線光学素子や光学系の開発が重要である。最近のX線光学素子の性能の進捗は著しく,10 keV近傍のX線領域で1μm以下のビームサイズを達成したという報告が相次いでいる。
 我々のグループもSPring-8の兵庫県ビームライン(BL24XU)において、タンタル製位相ゾーンプレートを用いて1μm以下のマイクロビームの形成に成功しており、このマイクロビームを用いた走査型X線顕微鏡システムの開発も行った(Y. Kagoshima et al., Nucl. Instrum. & Methods. A 467-468 (2001) 872-876.)。次のステップは、この走査型X線顕微鏡システムを生体試料、工業材料・機能素子の微小領域における分光、極微量元素分析とその空間分布マッピング測定等への応用を図り、生命科学や物質科学に有用な情報を提供することである。1999年度より兵庫県立中央農業技術センターと共同研究を進め、農作物が病原菌に感染したときに起こす「誘導抵抗性現象」による、特定元素の集積現象をとらえることに成功した(神戸新聞、平成12年6月15日(記事[1面][9面])。また、2000年度より赤穂化成株式会社と共同研究を始め、毛髪中微量元素の二次元マッピングや定量分析を進めている(朝日新聞、平成13年11月1日(記事[35面])、産経新聞、平成15年11月22日夕刊(記事[10面])、朝日新聞、平成16年9月19日(記事[3面])、日刊工業新聞、平成16年12月10日(記事[3面]))。
 一方、実時間観察を可能とする結像型顕微鏡の開発も同時に進め、実用的な解像度を得ることに成功している(Y. Kagoshima et al., Jpn. J. Appl. Phys. 39 (2000) L433-L435.)。さらに、ゼルニケ型のX線位相差顕微鏡を開発し、透明な生物試料の観察に成功した(Y. Kagoshima et al., Jpn. J. Appl. Phys. 40 (2001) L1190-L1192., Y. Kagoshima et al., Copyright © International Union of Crystallography, J. Synchrotron Rad. 9, 132---135.)。位相差顕微鏡の開発と並行してX線レンズの高性能化も図り、60 nmのLine-&-Spaceという極めて精細なパターンまで解像できるようにX線顕微鏡を高度化した(Y. Kagoshima et al., J. Phys IV France 104 (2003) 49-52.)。
 また、SPring-8の高い空間コヒーレンスによって初めて可能となる新奇の硬X線顕微干渉計を開発し、約160 nmの空間分解能を有する位相シフト像の取得に成功した(T. Koyama et al., Jpn. J. Appl. Phys. 43 (2004) L421-L423.)。硬X線顕微干渉計の光学系をグレードアップし、2次元透過位相像で空間分解能60 nmを達成した。さらにトモグラフィーの手法を導入することにより、3次元位相像で約200 nmの空間分解能を達成した(T. Koyama et al., Jpn. J. Appl. Phys. 45 (2006) L1159-L1161.)。