高温超伝導体の電荷ストライプ
銅酸化物高温超伝導体が示すエキゾティックな性質のひとつとして、電荷キャリアーがストライプ状に整列する電荷ストライプと呼ばれる現象が知られている。とくにホール濃度が1/8付近で電気伝導度が急激に落ち込む現象(1/8問題と呼ばれる)との関連性や、超伝導との共存が検証されたことから、超伝導発現機構との関連性において注目されている。
t-J模型に立脚した簡単な議論によると、反強磁性交換相互作用Jが十分大きいときには、ドープされたホール間に有効的な引力が働き、ホール・ペアが形成され、さらには多数のホールが集まる相分離が起きる。このような状況で、Jとフラストレートする次近接交換相互作用J'が働く場合、ホールはストライプ状に集まる方がエネルギー的に得することを示すことができる。実際の銅酸化物に対する中性子散乱実験によると、この次近接交換相互作用よりも、プラケット上の4スピンを同時に巡回置換する4体スピン交換相互作用(ring exchange)の方が重要であることが示されている。t-J模型に立脚した議論では、このring
exchangeによっても同様に電荷ストライプを安定化することを示すことができる。ひとつのプラケット上の4スピンだけを考えるとき、このring
exchangeは4スピンのトリプレット状態を安定化するため、シングレットを基底状態とするもとの隣接2スピン間の交換相互作用とは、量子力学的にフラストレートしている。以上から、反強磁性のフラストレーションが、電荷ストライプのひとつの起源となり得ることがわかる。実際、ring exchangeや次近接交換相互作用を取り入れた拡張t-J模型の数値的厳密対角化の解析により、現実的なパラメータ領域でも電荷ストライプが起こり得ることが示された。今後、超伝導発現機構や擬ギャップとの関連性について、あるいはニッケル酸化物等で発見されている対角線上に並ぶ電荷ストライプのメカニズム解明に向けて、研究を進めたい。