高温超伝導体の擬ギャップ
銅酸化物高温超伝導体では、母体となるモット絶縁体に電荷キャリアーとしてのホール(あるいは電子)をドープすることによって、超伝導が発現する。ドープするキャリアーの濃度が小さい領域(低ドープ領域)では、超伝導が起きる臨界点より少し高い温度で、NMR緩和率、磁化率、電気伝導率等さまざまな物理量の温度依存性にブロードなピークが観測されている。この異常金属としての現象は擬ギャップ現象と呼ばれており、そのメカニズムは超伝導発現機構と密接な関係があることはわかっているものの、まだ解明されていない。
銅酸化物高温超伝導体の性質を記述モデルのひとつであるt-J模型に対し、有限系の厳密対角化や有限温度ランチョス法による解析を適用した結果、この擬ギャップは反強磁性スピン相関が低温で発達することと呼応していることが確かめられた。したがって、反強磁性スピン相関に起因している可能性が高いと考えられるが、超伝導ゆらぎに起因するという理論や両者の競合によるという理論もあり、完全な解決は今後の研究にかかっている。