高温超伝導体における電子格子相互作用


電子格子相互作用は、従来の超伝導発現機構(BCS理論、1957年)において、電子がクーパー・ペアを形成して対凝縮を起こすための電子間引力の起源として重要な役割を果たす。一方、銅酸化物高温超伝導(1986年)では、この電子間引力の起源は、反強磁性的スピン相関という磁気的な相互作用であることが有力視されている。一般に強相関電子系においては、格子ひずみはポーラロン効果を引き起こして電子を局在させ、CDWやSDW等の静的秩序の原因ともなる。それでは、銅酸化物高温超伝導体において、電子格子相互作用はどのような役割をはたしているのだろうか?
 量子化されたフォノンとの結合を導入したホルスタイン-t-J模型に対する有限系の厳密対角化の解析の結果、電子格子相互作用の役割は、伝導面であるCO
2面に対して振動方向が平行か垂直かで異なることがわかった。面内の振動モード(breathing mode)は、ポーラロン効果によってホールを局在させてCDWやSDWを引き起こすのに対し、垂直の振動モード(buckling mode)は電子間引力を助長するうえにポーラロン効果が小さいため、超伝導をアシストする可能性があることが示された。
 実際に銅酸化物高温超伝導体では、同位体効果の実験等から電子格子相互作用が働いていることが示されており、最近breathing modeも対形成を助長する可能性があることを示す理論も提案されている。