電子スピン共鳴(ESR)による
スピンギャップ観測の理論


スピンギャップとは、巨視的な基底一重項(シングレット)と三重項(トリプレット)との間のギャップである。したがって、電子スピン共鳴(ESR)においては、スピン量子数の保存則により、スピンギャップに相当する遷移は禁制遷移となり観測できないはずである。ところが最近、実際のハルデン系、スピンパイエルス系、直行ダイマー系等で、このスピンギャップに相当するESRのシグナルが観測され、注目されている。この禁制遷移が観測される原因としては、スピンの保存を破る相互作用が不可欠で、有力なメカニズムとして、g−テンソルの主軸の交代によるstaggered fieldと、ジャロシンスキー・守谷相互作用が提唱されている。このふたつのメカニズムについて、独立のESR選択則を導き、実験結果と照合して、より有効なメカニズムを明らかにする研究を進めている。ESRによるギャップ観測法が確立すれば、
これまで唯一のギャップ直接観測の手段であった中性子散乱ではカバーしきれない、強磁場等の極限下におけるギャップ観測が急速に進展するであろう。