背景

光子(フォトン)は、荷電粒子と相互作用するため、物質の微視的状態を観測するプローブとして最適である。最近の放射光を用いたX 線分光システムの革新やレーザー分光法により、フォトンのエネルギーや偏光特性を詳細にチューニングすることが可能となっている。すなわち、現代の精密物質材料科学においては、元素選択した測定や特定の励起状態を詳細に観測するプローブとしてもフォトンは必要不可欠である。さらに、短時間(フェムト秒)に多数のフォトンを照射することにより、強電場により物質改変を行う場としての重要性が認識されている。
一方、これまでの物質科学研究の変遷を概観すると、ヘリウム液化の成功が超伝導現象の発見につながったように、極限条件の実現が物質科学に新たな研究領域を開拓してきている。また、最近の基礎科学及び材料科学としても興味深い対象の高温超伝導や巨大磁気抵抗効果を示す物質系では、実験、理論の両面で空間的不均一性及び非線形性が新奇物性現象の発現に重要であると指摘されている。すなわち、自己組織化や創発が重要であり、均一系統計力学での基本定理であるエルゴード性が破れている可能性もある。すなわち、本質的に空間的・時間的不均一な系では、時間分解した回折(空間積分)測定や元素選択した(局所的)時間領域でのフォトンをプローブとする高精密測定手法の開発が重要である。
これら重要視される研究手法を用いた研究を強く推進するために、横断的なグループ構成と、それらを結びつけるべくDX環境整備を行う。

設置趣旨

フォトンサイエンス研究センターは、当部局において「光科学の拠点」を謳える有形のセンターとする。当センターは、「複合ビーム物性研究グループ」「多重極限環境光励起物性研究グループ」「非線形・創発フォトンサイエンス・グループ」の3つの横断的なグループで構成される。さらに当センターには、これら3グループを中心として推進する放射光・レーザー研究と情報科学を融合できる教育・研究拠点環境を設ける。特に、SPring-8,SACLA,NewSUBARU等の外部大型施設利用の光学実験を想定して、データを取得・処理・分析する統合システムを構築する役割を担う。将来的には当該センターが起点となり、マテリアルズ・インフォマティクスに貢献できる光科学のデータベース環境を構築する。

必要性および効果

マテリアルズ・インフォマティクスを遂行するにあたり、情報の入力部は益々重要性を増している。理学部は、特に「質」を見極めた情報を、「利活用できる形式」で提供することに貢献できる。光科学分野におけるデータの質については、その光源の性能に依るところが大きい。幸い、当理学部はSPring-8に近い立地であることもあり、高性能な放射光源をはじめ種々の光源を利用でき、高品質のデータを取得できる環境にある。この優位性を活かして、各装置で取得した計測データを情報科学に利用可能な形式で蓄積するためには、計測系−解析系のインターフェースを共用性の高いプラットフォーム上で構築することが不可欠である。当センターは、このプラットフォーム構築を担う。将来的には、理学研究科が新設を目指す情報系研究室と連携して、インフォマティクス研究の発展を図る。