1. 原子磁力計 (atomic magnetometer)
    原子のエネルギー準位のゼーマンシフトやスピン歳差運動を検知する. 感度は$1\,\mathrm{fT}/\sqrt{\mathrm{Hz}}$を超える. 通常, 容器中の多数の原子を必要とするので, 測定対象に原子サイズまで近づけることができない. したがって, 大きさが μm 以上の物体が発する磁場の測定に適する.
  2. 原子ジャイロ (atomic gyroscope)
    スピンの歳差運動を観測する磁力計において磁場を一定にすると, 歳差運動の回転周波数が一定になる. その条件で装置を回転させると, 歳差運動の回転周波数(位相)が変化したように見える. この変化を検知して装置の回転運動を観測するのが回転計である.
  3. 原子時計 (atomic clock)
    マイクロ波周波数の原子時計は, 半世紀にわたる時間標準であり, アルカリ金属原子の基底状態の超微細分裂周波数を測定する. 最近は, マイクロ波(導波管)を必要としないCPT共鳴により周波数を測定することにより, 装置の小型化が進んでいる.
  4. CPT (coherent population trapping)
    量子力学的な重ね合わせ状態にすること. エネルギー値が異なる状態の重ね合わせでは量子ビートが生じる. ビート信号の位相は, 重ね合わせの位相を反映する.
  5. 光ポンピング (optical pumping)
    光照射により原子の量子力学的な状態を, 熱平衡による混合状態から純粋状態に変化させること. 目的の状態が, 1つのエネルギー固有状態であったり, 位相関係が一定の重ね合わせ状態であったりする.
  6. 超微細分裂 (hyperfine splitting)
    1つの電子軌道状態について, 電子の角運動量(軌道, スピン)と核スピンの結合によりエネルギー縮退が解けること, また, そのエネルギー分裂をいう. アルカリ金属の電子基底状態では, 分裂の大きさはマイクロ波周波数(~GHz)になる.
  7. 衝突効果 (collision-induced relaxation)
    アルカリ金属原子が希ガス原子と衝突する際, さまざまな相互作用により量子力学的状態が変化する. 相互作用として, spin-rotation interaction(原子の電子スピンと, 衝突における回転運動との結合)hyperfine-shift interaction(衝突の際の原子の電子軌道の歪による超微細相互作用の変調)などは緩和という悪影響だけでなく, 光ポンピングを助ける側面もある.
  8. スピン偏極移行 (spin-polarization transfer)
    ある粒子から他の粒子に角運動量が移動すること. 例えば, Rb原子の電子から希ガス原子の核へ角運動量が移動し, 逆に希ガス原子からRb原子へ移動する.
  9. SERF (spin-exchange relaxation free)
    高温にすると, アルカリ金属原子が高密度になり, 光の吸収率が大きくなるが, スピン交換(spin-exchange)する原子衝突頻度が高まり緩和(relaxation)が大きくなるので, 磁場測定のための信号が小さくなる. 一方, 小さな静磁場中の高密度原子を光ポンピングすると, スピン緩和が小さく(free)なり, 非常に大きな信号が得られる.
  10. 原子集団 (atomic ensemble)
    ガラスセル中にRb原子(~$10^{12}$個)と希ガス原子(~$10^{15}$個)を封入し, 集団としてのRb原子と希ガス原子を操作する. 光で操作するのはRb原子集団で, Rb原子と相互作用させて, 希ガス原子集団に量子状態を記録する.
  11. コヒーレント相互作用 (coherent interaction)
    ガラスセル中では多数の原子どうしが衝突を繰り返す. 原子の量子状態に関連する主要な相互作用は, Rb原子の価電子スピンと希ガス原子の核スピンの磁気相互作用である. それぞれ, 衝突パラメータや相対速度が異なるが, 衝突について集団平均すると, 位相の連続(コヒーレント)な相互作用で表すことができる.
  12. 仮想量子系 (virtual quantum system)
    多数の原子が封入されているガラスセル中では, 原子間の相互作用を集団平均するとコヒーレント相互作用になる. つまり, Rb原子集団を1つの量子, 希ガス原子集団を1つの量子として, 仮想的な2つの量子(それぞれの内部状態は2つ)がコヒーレント相互作用していると考えることができる.
  13. リウヴィル超演算子 (Liouville super-operator)
    量子状態(純粋状態と混合状態)を表すことができる密度演算子に演算するので超演算子とよばれる. 密度演算子の時間変化の式(量子リウヴィル方程式, フォンノイマン方程式)に現れるのでリウヴィル超演算子と呼ばれる.
  14. 散逸とデコヒーレンス (dissipation and decoherence)
    量子系のエネルギーが内部や環境に分散するのを散逸という. 単一のエネルギー固有状態ではない量子状態(コヒーレンスやエンタングルメントなどのある状態)が(エネルギーの散逸なしに)乱れることをデコヒーレンスという.
  15. 拡散接合 (diffusion bonding)
    光学研磨した同じ材質の基板を接触させ加熱すると, 強固に接合される. 本研究では, ガラス基板(約600℃)とサファイア基板(約1000℃)の接合に利用される.
  16. 陽極接合 (anodic bonding)
    光学研磨した基板を接触させ加熱(約350℃)しながら電圧(約500V)を加えると, 強固に接合される. 本研究では, ガラス基板(陰極)とシリコン結晶(陽極)の接合に利用される. 拡散接合より温度が低いので熱膨張率の調整が容易である.