細胞内は、生体分子で混みあった分子crowdingという状態であり、細胞内でのタンパク質は、このような分子crowdingの状態で機能しています。そのため、複数のタンパク質が関与する生理反応においては、これらのタンパク質群が相互作用するなど、連携して機能する必要があると考えられます。
我々は、この考えを微生物が行う脱窒反応(下図)に適用しました。脱窒とは、硝酸を段階的に還元し窒素分子に変換する連続した化学反応過程です。この反応は、地球環境問題や病原菌の宿主内での生育と関連する重要な生理反応です。
脱窒反応では、中間生成物として細胞毒性の高い一酸化窒素NOが生成されます。そこで、細胞内でNOを拡散させずに効率良く分解するためには、NOを合成する亜硝酸還元酵素とNOを分解するNO還元酵素が相互作用して機能していると考えました。その結果、予想どおり、亜硝酸還元酵素とNO還元酵素が複合体を形成することをX線結晶構造解析を中心に明らかにすることができました(下図)。
上述したようなタンパク質同士の相互作用のおかげで、効率良く生理反応が行われているというのは、様々な生理反応で起こっていると想像できます。この研究テーマでは、このようなタンパク質間相互作用による生理反応の制御機構の解明を目指して研究に取り組みます。タンパク質の複合体形成に関しては、低温電子顕微鏡(CryoEM)を使った構造解析が強力なツールとなると考えられます。また、このテーマでは、細胞内でタンパク質がどのような相互作用ネットワークを構築しているのか、明らかにするための手法も新たにとりいれて研究を進めたいと考えています。