3.地球内部の構造と運動
b. 地球内部の構造

波動
波動(波)は、何らかの振動が空間を伝わっていく現象
波動の例:湖面に浮かぶボートが、近くを通る観光船に揺すられる
 振動する状態(上下の揺れ)が、波として湖面を伝わる
 ボートは、波を受けて上下するが、波と一緒には移動しない
光や音は波動である
 光は電磁波;電場と磁場が、それらの振動方向と垂直に伝播
 音は弾性波;膨張や収縮が、波として周囲に伝わる
 地震波は固体を伝わる弾性波;膨張や収縮以外にずれも伝わる
波動は変動やエネルギーを伝える
 太陽からくる電磁波は、地表にエネルギーを運ぶ
 地震波は、震源から振動を伝えて地面を揺らす
波動は情報を伝える
 情報には、「波動の発生源」と「伝播経路の性質」に関するもの
 地震波は「震源で起きている現象」と「地球の内部構造」を伝える
 波長の長い電磁波も、地殻やマントルの構造についての情報

Q. 次の例では、発生源と伝播経路のどちらの情報が伝えられるか
 太陽光のスペクトルから、太陽表面の温度を知る
 太陽光のスペクトルから、太陽大気を構成する元素を知る
 音楽を楽しむ
 やまびこを識別して、山の存在を知る

波動の伝播
波動が伝わる速度:波動を伝える媒質の種類や状態できまる
 光速度:3×108 m/s; 地表での音速:330 m/s
 波の伝播速度=振動数(周波数)×波長; 波長は振動数に反比例
波動は、伝播の途上で、吸収、反射、屈折、散乱される
 吸収:波動のエネルギーが、物質に取り込まれて、熱などに転化
 反射:物質の境界で、波が逆向きに返される
 屈折:異なる物質の内部に、方向を変えて伝播する
 散乱:複雑な反射や屈折によって、波動が色々な方向に分散する
波線:波動が進む経路(図:反射と屈折)
 反射や屈折により、波線は曲げられる
 反射や屈折は、物質の境界面、伝播速度の不連続面で起こる
 波線の方向は、不連続面で振動が連続するように決められる
 入射角、反射角:不連続面と垂直な直線と波線のなす角
反射波: θ12  入射角=反射角
屈折波:スネル(Snell)の法則  sinθ1 /V1=sinθ2/V2
 波線に沿って、sinθ/V は不変
 伝播速度が変化する媒質では、この条件により波線を追跡



Q. 水を入れると、鍋の底が浅く見えるのは何故か?
Q. プリズムを通った光は、何故異なる色に分かれるか?

地震計(図:地震計の模式図)
地震計は、地面の揺れ(地震動)を計る計器
 振り子やバネにつながれた錘を基準に、揺れを記録する
 揺れには3成分(3方向の揺れの組み合わせ);上下、南北、東西
 記録されるのは、変位(揺れによる位置の変化)、速度、加速度
  速度は変位の時間微分、加速度は速度の時間微分
周期の長い振動は、検出しにくい
よく使われる地震計
 高感度速度型地震計、強震計(加速度計)、広帯域地震計
 変位型地震計は今は余り使われない

Q. 振り子を揺らせて、周期の長い振動が検出し難い理由を考えよ

地震波(図:距離による地震記録の変化)
地震波形
 地震計によって記録される地面の揺れの時間的な変化
 震源からの距離が遠くなると、到達時刻が遅れ、振幅が小さくなる
特徴的な輪郭をもつ2つの部分
 最初に到達する波:P波(primary wave)
 次に到達する波:S波(secondary wave)
 震源から2種類の波が発生して、異なる速度(地震波速度)で伝播
震源までの距離に関する経験式:大森公式(1918)
 距離(km) = 7 × P波とS波の到達時刻の差(秒)
 現実には、係数7は4〜9;岩石の違いや地震波の伝播経路を反映
下図:G. A. Eiby "Earthquakes"(Heinemann, New Zealand)より



Q. P波とS波が同じ時刻に発した異なる波だと考える理由を述べよ

弾性波(図:縦波と横波)
P波とS波は、揺れの方向が異なる
 P波は上下方向、S波は水平方向の揺れが顕著
 P波は、揺れが入射方向(伝播方向)と平行(同じ方向)
 S波は、揺れが入射方向と垂直
P波は縦波、S波は横波
 波が伝わる方向を縦方向として、縦波は振動も縦方向、横波は振動が横方向
 P波(縦波)は、縦方向の伸び縮みが、縦方向に伝播
 S波(横波)は、横方向のずれ(形の変化)が、縦方向に伝播
地震波は弾性波
 伸び縮みやずれ(歪)が、弾性的な抵抗力のために伝わる
 弾性的な抵抗力:歪を元に戻そうとする力
  単位面積あたりの力を応力という
 応力の大きさは、歪の大きさにほぼ比例する(フックの法則)
P波の伝播;次の過程が繰り返されて、縮みがx方向に伝わる
 面x1が急に押されて動くと、隣接するx2(>x1)との間が縮む
 縮みへの弾性的な反発が、x1を押し返して運動を止め、x2を動かす
 応力と縮みが、運動とともに、x2に移動する
固体には、縦波と横波が存在
 横波は、ずれに抵抗する力のために伝わる
 P波(縦波)速度Vp、S波(横波)速度Vs; Vp > Vs
 同時に震源を出たP波は、S波より早く到達する
流体(気体や液体)は、ずれへの抵抗力がないため、縦波のみが存在
 空気を伝わる音波は、弾性波で、縦波。横波は空気を伝わらない

Q. 地震の最初の揺れは縦揺れであることが多い。何故か?
Q. 流体にずれを加えると、どうなるか?

[参考]波動の伝播速度
弾性体では、応力σと歪εは比例する(フックの法則)
 伸縮変形:σ = (K+4μ/3)ε ずれ変形:σ = με
  Kは体積弾性率、μは剛性率
この式を運動方程式に代入すると、波動方程式が得られる
 変形が次の速度で伝わることが示される
 Vp = [(K+4μ/3)/ρ]1/2  Vs = (μ/ρ)1/2
  ρは密度
 この表現から、ただちに Vp > Vs
気体については μ = 0
 Kとρについて、理想気体の状態方程式を使うと、
 Vp = (γRT/M)1/2  Vs = 0
  Rは気体定数、Tは絶対温度、Mは分子量
  γは1に近い無次元数(定圧比熱と定積比熱の比)
水面波(海面や湖面にたつ波)は弾性波ではない
 水面の上下を戻そうとする重力が、波動を生み出す
 伝播速度の表現は複雑だが、波長の極限では次式で記述
 長い波(λ >> H):(gH)1/2 短い波(λ << H):(gλ/2π)1/2
  gは重力加速度、Hは水の深さ、λは波の波長

走時曲線(図:走時曲線)
地表の各点に地震波が到達する時刻は、震源からの距離で変わる
 距離と到達時刻の関係は、走時曲線によって示される
走時曲線は、走時を震央距離の関数として描いた曲線
 走時:地震波が震源を出てから観測点に達するまでの時間
 震央距離:震央と観測点の間の距離
 震央とは、震源の真上に位置する地表の点
大地震が起こると、世界中の地震計がその振動を記録
 大きな震央距離は、地球の中心を見込む角度(角距離)で表現
走時曲線は、地球内部の地震波速度の分布によって決まる
 地震波速度が一様で、震源が地表にあれば、走時曲線は直線
 直線の勾配は、地震波速度の逆数
地震波速度は、圧力を反映して、主に深さの関数となる
 通常は、圧力の増加に対応して、深さとともにゆるやかに増加
 波線は、スネルの法則に従い、下に凸の曲線を描く
 走時曲線は、距離とともに上に凸の曲線となる
地震波速度の異常な変化があると、走時曲線はそれを敏感に反映
 深さとともに地震波速度が急増すると、走時曲線には重なり
 深さとともに地震波速度が減少すると、走時曲線にはとび



Q. 夜中に遠くの列車の音などがよく聞こえるのは何故か?


地震波速度の深さ分布(図:地球内部のP波の伝播と走時曲線)
走時曲線から、地震波速度が深さの関数として計算できる
 地震波速度が一様なら、走時曲線の傾きから速度が得られる
地震波速度が深さとともにゆるやかに増加する場合
 波線は下に凸の曲線
 震央距離が大きくなるほど、走時は深い速度を反映
 小さい距離の走時を使って、浅い速度を決める
 距離を伸ばして、浅い速度の寄与を引き、次の深さの速度を決める
 この操作を繰り返して、順次、深いところまで速度を計算
実際の走時曲線には、重なりやとびがある
 地震波速度の減少、急増に対応して、地球内部は層に分かれる
 大きな不連続から、地殻、マントル、核に大別される
 各々の層は、更に細かい層に分かれる
走時曲線の定量的な解析から、境界の深さ、各層の厚さが決まる
 地殻の厚さ:海洋地殻は平均7km、大陸地殻は30〜60km
 マントルと核の境界:深さ2900km
下図:杉村・中村・井田編「図説地球科学」(岩波書店)より



Q. 地震波速度の分布が、主に深さに依存する理由を述べよ
Q. 地球全体のS波の走時曲線は、どんな特徴をもつか?

地殻の検出
100km程度の震央距離で、走時曲線に重なり
 地殻からマントルに入ると、地震波速度が急増
 超マフィックな岩石と、マフィック〜フェルシックな岩石の差
地殻とマントルの境界面をモホ面とよぶ
 モホ面の深さは、場所によって異なる
 海洋地殻は厚さ約7km、大陸地殻は厚さ30〜60km

核の検出(図:地球内部の地震波速度)
走時曲線は、角距離が103°を越えると、顕著な異常
 P波もS波も見えなくなり、走時曲線にとびができる
 角距離が143°を越えると、P波だけが再び見えだす
この事実は、Feを主成分とする核の存在と整合する
 地球の中心には、マントルよりP波速度が小さい核が存在
 核は液体で、S波を通さない
 Feは超マフィックな岩石より融点が低く、弾性波速度が小さい
かげの領域にも、わずかながら地震波が到達
 外核の内部に、内核が存在
 内核は外核より地震波速度が大きい
  外核から内核に入った地震波は、浅く曲げられてかげの領域に
 外核は液体だが、内核は固体



Q. 核の方が地震波速度が大きかったら、走時曲線はどうなるか?

マントルの構造
物質の状態と地震波速度
 岩石の地震波速度は、圧力とともに増加し、温度とともに減少する
  原子の間隔が近づくと、弾性的な力が強まり、地震波速度が増加
 地震波速度は、通常は圧力の効果で深さとともに増加する
 温度効果などが卓越する場合は、深い側で減少する
深さ30〜100km付近に低速度層(角距離10°付近に走時曲線のとび)
 温度が高く、部分融解でマグマも生じて、地震波速度が下がる
深さ400〜670kmで速度の急増(角距離20°付近に走時曲線の重なり)
 この遷移層を境に、上部マントル下部マントルに分ける
遷移層では、圧力の上昇とともに結晶構造が変化(相転移)
 実験室の高温・高圧実験で確認(図:カンラン石の相転移)
 原子配列が密になり、弾性的な力が強まって、地震波速度が増加
マントルの構成鉱物
 上部マントルは、カンラン石や輝石など
 下部マントルは、ペロブスカイト構造の鉱物、酸化物など
マントルの底、D”層で地震波速度の増加がにぶる
 核からの熱や物質の供給のために、地震波速度が小さくなる

Q. 鉱物の体積(密度)を決めるのは、主にどの原子(イオン)か?

地球内部の温度と圧力
圧力は、地球内部の密度の分布と関係して、精度よく計算できる
 ある深さの圧力は、その上に乗っている荷重の合計
 重力加速度(単位質量に働く引力)はその下に存在する質量の合計
 密度は物質の種類に依存、密度の圧力依存性は地震波速度から決まる
 これらの関係を組み合わせ、密度、圧力、重力加速度を一緒に計算
温度は、各種の情報をつなぎ合わせて決めるが、精度はよくない
 地表付近の地温勾配(100m深くなる毎に数度上昇)
 超マフィックな岩石に含まれる鉱物間の元素の分配
 低速度層で、マントルの温度が融点に近い
 遷移層で、地震波速度の急増に対応する相転移の温度
 マントルでは岩石の融点より低く、外核では金属鉄の融点を超える
 内核と外核の境界で、温度は金属鉄の融点と一致する
 マントル、核の内部で、温度は断熱温度勾配に沿って変化する


深さ(km) 密度(kg/m3) 圧力(GPa) 温度(℃)
0 2500 1×10-4 20  地表 80 3400 2.5 1000  上部マントル 400 3500, 3700 13 1300  遷移層最上部 670 4000, 4400 24 1600  遷移層最下部 2891 5600, 9900 136 5000  マントルと外核の境界 5150 12200,12800 329 6300  外核と内核の境界 6371 13000 364 6700  地球の中心
Q. 地球内部の状態を知るためには、どんな室内実験が必要か? 地球の内部構造のまとめ 化学組成によって、地球内部は、地殻、マントル、核に大別される  地殻:マフィック〜フェルシックな岩石  マントル:超マフィックな岩石;体積は固体地球全体の83%  核:Feを主成分とする金属 地殻は、大陸地殻と海洋地殻の間で、化学組成や厚さが異なる  海洋地殻はマフィックな組成で、厚さ約7km  大陸地殻はマフィック〜フェルシックな組成で、厚さ30〜60km マントルは、構成鉱物の結晶構造の違いから、3つに分けられる  上部マントル:深さ400km付近まで;カンラン石や輝石などで構成  下部マントル:深さ700〜2900km;ペロブスカイト構造の鉱物、酸化物など  遷移層:上部と下部マントルの間;結晶構造が何段階かで遷移 マントルは、温度が相対的に高い低速度層とD”層を含む 核は、液体の外核と固体の内核に分けられる