3.地球内部の構造と運動
a. 地球の元素組成と構成

地球の元素組成の推定法
推定は、宇宙存在度(太陽系の始原物質の元素組成)に基づく
 地球全体の元素組成は、元々は宇宙存在度と同じと仮定
  地球は共通の太陽系星雲から出来た
 ただし、軽元素の多くは、その後気体として地球から抜けた
 宇宙存在度の見積もりは、太陽大気と隕石のデータによる
固体地球全体の元素組成:宇宙存在度から軽元素を除いたもの
 大気や海の元素は、固体地球と比べれば無視できる程少ない
固体地球の構成と各部分の元素組成
 全体の元素組成を、地殻や深部起源の岩石の化学組成と比較
 地球全体の密度、地球磁場の存在なども考慮
 地震波速度の分布から、各層の厚さや性質の詳細を決める

Q. 元素組成についての上の推定法は、木星にも当てはまるか?

太陽大気の元素組成(図:太陽の構成と太陽光のスペクトル)
太陽は、高密度物質でできた光球を、大気層コロナが囲む
 その間に、彩層と呼ばれる針状の大気層の集合体
太陽大気の元素組成
 太陽光の光学的なスペクトル;プリズムで波長に分解する
変化する色の間に、沢山の暗線(フラウンフォーファー線)
 太陽大気中の元素が、特有な波長の電磁波(フォトン)を吸収
 暗線の波長から元素の種類、吸収の強さからその元素の相対的な量

Q. 電磁波を吸収すると、原子はどう変わるか?

隕石(図:隕石;右が炭素質コンドライト)
隕石は、地球の外から地表に落ちてくる物体
 岩石からできた石質隕石と、金属鉄からできた隕鉄に分けられる
 小惑星帯からくるものが多い
小さな地球型惑星が、形成初期に破壊されたもの
 形成年代は、太陽系や地球の形成時期と一致
太陽系の始原物質との関係
 全体は、太陽系の始原物質の組成を表すはず
 各々の隕石は、惑星のどの部分からきたかで性質が異なる
 始原物質に近いのは、炭素質コンドライトという石質隕石

Q. 隕石はクレータ(すり鉢状の穴)の底でよく見つかる。何故か?

宇宙存在度(図:太陽大気と炭素質コンドライトの元素存在度)
太陽大気と隕石(炭素質コンドライト)の元素組成を比較
 軽元素と微量元素を除くと、相関がかなりよい
 軽元素は、隕石の元となる惑星からかなり抜けたと解釈
  HやHeのほとんど、O, C, Nのかなりの部分
 微量元素(原子番号が大)は、太陽大気のデータが精度不足
  Li, Bや原子番号の大きい元素
太陽大気と隕石の元素組成から、宇宙存在度を求める
 ふたつの間で相関のよい元素は、共通の比率
 軽元素は、太陽大気のデータを採用
 微量元素は、隕石のデータから決める
宇宙存在度の特徴
 太陽系には、Hが最も多い。Heがその約1/5
 次いで、OがHの1/1000程度、CがOの半分程度、更に1/10程度のN
  N2は、地球大気の主成分に
 更に少ないSi, Mg, Feが、固体部分の主成分に
下図:松尾禎士「地球化学」(講談社サイエンティフィク)より



Q. 地球型惑星の大気は、何故主成分がCO2になるか?

地球の元素組成(図:地球全体、地殻、マントルの化学組成の分布図)
地球の元素組成は、宇宙存在度で軽元素を除いたもの
 H, He, C, Nの他に、Ne, Ar, Sも失われた
地球は主にO, Si, Mg, Feから構成される。Si, Mg, Feはほぼ同量
 次に多いのは、Ca, Al, Naなど
固体地球全体の元素組成:
 大気や海に存在する元素は、地球全体から見れば極めて少ない
 固体地球の元素組成は、地球全体の元素組成とほぼ同じ
 気体となる元素の比率は、酸素を除いて極めて低い
酸素Oは、鉱物の主要構成元素として、固体地球にも入る
 Oは気体にもなるので、存在量は宇宙存在度から決められない
 Oの存在量は、鉱物全体の電荷バランスから決める
  元素が金属になる場合は、電荷バランスにOは必要ない
 組成の独立な構成要素としては扱わない



Q. 等量のSi, Mg, Feでできた鉱物には、Oがどれだけ含まれるか?

固体地球の構成物質
地表付近で見られる固体物質は、岩石、泥、動植物、人工物など様々
 地球の内部に入ると、そこは火成岩でできている
 地球内部の物質は、地表では火成岩の形で現れる
火成岩は、マグマが元になり、火山の活動でできた岩石と通常定義
 ここでは、地球内部を起源とする岩石と広く解釈
火成岩は、何種類かの鉱物(結晶)から構成される
 ほとんどの鉱物は、SiとOを骨格とする珪酸塩鉱物
 結晶になれなかった非晶質(ガラス)も含む
火成岩は火山岩と深成岩に分けられる
 火山岩:結晶が小さく非晶質が多い。噴出して急冷された
 深成岩:結晶が大きく成長。内部でゆっくり固まった
火成岩が元になって、変成岩、堆積岩、土壌、金属鉱床などができる

Q. 岩石と鉱物はどう違うか?

火成岩の分類(図:カコウ岩と構成鉱物、玄武岩とガブロ)
火成岩には黒っぽいものから白っぽいものまである
 白っぽいもの:フェルシック(珪長質)な岩石;Siが多く、MgやFeが少ない
 黒っぽいもの:マフィック(苦鉄質)な岩石;Siが少なく、MgやFeが多い
黒っぽさは有色鉱物の量を表し、化学組成を反映する
 カコウ岩はフェルシックな岩石の例、石英、長石、角閃石などからなる
 玄武岩はマフィックな岩石の例、カンラン石、輝石、長石などからなる
 中間的な岩石や、超マフィックな岩石もある
マフィックになるほど、結晶が緻密な構造をとり、岩石は高密度に
[参考]

岩石の総称  有色鉱物の体積 SiO2の重量 火山岩    深成岩
超マフィック  70%以上    45%以下          カンラン岩 マフィック   40〜70%    45〜52%   玄武岩    ガブロ 中間      20〜40%    52〜66%   安山岩    閃緑岩 フェルシック  20%以下    66〜70%   デイサイト  カコウ閃緑岩                70%以上   流紋岩    カコウ岩
Q. マフィックやフェルシックな溶岩を噴出する火山の例をあげよ 地殻の岩石 地殻:地球の表層部  地表付近で見られる大部分の火成岩は、地殻に属する 地殻の岩石の化学組成  地表での採取やボーリング(陸上、海底)で得られた試料の分析  様々な試料の平均、統計的な処理 大陸地殻と海洋地殻では化学組成が異なる  海洋地殻は、マフィックな岩石でできている  大陸地殻には、フェルシックな岩石や中間的な岩石が多い  いずれの場合も、一番多いのはSi、次いでAl、それ以外の元素は更に少ない 地殻の組成は、固体地球全体と明らかに異なる  Siが多く、MgやFeが少ない  地球の深部は別な物質でできているはず Q. 大陸地殻と海洋地殻の密度は、どちらが大きいか? 超マフィック捕獲岩 捕獲岩は、マグマが上昇途上で周囲から捕獲してきた岩石  融けた痕跡がなく、マグマとは区別されるもの アフリカなどの鉱床から、元素組成が超マフィックな捕獲岩が出る  ダイヤモンドなどの高圧鉱物と、しばしば一緒に出る  高圧鉱物の形成条件から、捕獲された深さは30kmより深い ダイヤモンドは炭素Cでできている  炭と同じ成分。高い圧力で緻密な結晶構造になった 超マフィックな捕獲岩は、地球の深部に由来する  元素組成の違いから、地殻より下の別な領域からきた  この領域をマントルとよぶ Q. ダイヤモンドを高温で熱するとどうなるか? マントル マントルの組成  超マフィック捕獲岩の組成:SiとMgが多い。次に多いのがFe  主な構成鉱物は、カンラン石(Mg,Fe)2SiO4と輝石(Mg,Fe)SiO3  Feは、Mgと結晶の中で同じサイト;MgとFeの割合は9:1程度 地殻とマントルは、共に珪酸塩鉱物から成る  マントル:主にO, Si, Mgから構成。Feも存在  地殻:O, Si, Mgに加えて、Ca, Al, Naなど、多様な元素  マントルは、超マフィックな鉱物で構成され、地殻より密度が高い 固体地球の構成との関係  マントルの組成は、宇宙存在度から推定した地球全体と似ている   マントルは、固体地球で主要な体積をしめると考えられる  地殻は表層の薄い部分で、固体地球の体積のごく一部  マントルには、Feの量が不足する   主にFeから構成される核の存在が示唆される Q. カンラン石(オリビン)の名はオリーブに由来する。類似点は? 地球の中心に、金属鉄を主成分とする核の存在  隕鉄は、破壊された小惑星の核の断片 固体地球の密度  地球の平均密度は5500 kg/m3  地殻を構成する岩石は、密度が2500 kg/m3程度  マントルの岩石は、密度が3200 kg/m3程度  核の主要構成物である金属鉄は7860 kg/m3 圧力の効果があるにせよ、マントルは地球の平均密度を説明できない  金属鉄を主体とする核の存在で、平均密度は高くできる 核の化学組成  純粋の鉄では密度が大きすぎる  30%程度の不純物を含む  隕鉄の組成などから、Ni, S, O, Si, Hなどを含む可能性 地球磁場も、核の存在を必要とする Q. 地球や惑星の平均密度は、どのような方法で求められるか? 固体地球の構造のまとめ(図:地球の構造) 固体地球は、地殻、マントル、核から成る  地殻とマントルは岩石、核は金属 地殻:薄い表層。  海洋地殻はマフィックな岩石  大陸地殻はマフィック〜フェルシックな岩石  Siの他、Ca, Al, Naなど、多様な元素を含む マントル:固体地球の体積の主要な部分をしめる  超マフィックな岩石でできている  主にSi, Mg, Oから成り、Feも含む 核:地球の中心部に存在する高密度の領域  Feを主成分とする金属でできている 地球の形成過程 太陽系の始原物質でできた地球が、誕生初期に高温になった  融解した金属鉄が、底に沈んで核を造り、マントルと分離した  放出された重力エネルギーは、その後の活動の重要なエネルギー源 地殻は、火山活動によって、マントルからつくられた  マントルの一部が融解(部分融解)して、マグマに  上昇したマグマが、表面付近で固化して、地殻を成長させた  マグマに入りやすい元素が濃集し、マントルとは異なる組成に 火山活動で放出された軽元素によって、大気と海がつくられた Q. 融解した金属鉄でできた核では、その後どんな過程が進行したか?