特定領域研究「火山爆発のダイナミックス」は2002年度(平成14年度)にスタートした。研究期間は5年間である。同年度には理工系分野で12件の特定領域研究が新たに発足したが、そのひとつとして200件余りの申請の中から採択されたことを記憶しておきたい。谷口宏充氏を中心に積み上げられてきた数年間の準備が実を結んだわけだが、競ってきた他の分野から見ても十分な成果を上げるべく、研究期間を通して情熱と努力を保ち続けたいものである。
この特定領域研究が掲げる目標は、火山爆発のダイナミックスについて学術的な理解を深めること、更にそれを噴火予知や火山防災に役立てることである。この目標を達成するために、研究組織は、工学や社会学などの研究者を交えた学際的なものになっている。火山の噴火は時に溶岩を流し、時に様々な形態で爆発を起こす。この現象の素過程を物理学的に解明する上で、工学分野で開発されてきた実験、観測、シミュレーションの技術は有効に活用できると期待される。防災情報のあり方などについては、社会学研究者の協力を受けて新たな方向性が見出されよう。このような学際的な研究の流れの中で、今までやや博物的に扱われてきた火山現象が、発生機構と関連づけて体系的に理解できるようになるだろう。
特定領域研究は次の5つの研究項目から構成される。
A01. 火山爆発の発生場をさぐる
A02. 火山爆発の準備過程をさぐる
A03. 火山爆発のメカニズムをさぐる
A04. 火山爆発の地表現象をとらえる
A05. 火山爆発災害軽減への路をさぐる
火山爆発がどのような物理・化学過程で引き起こされるかは、主にA02とA03が究明にあたる。火山爆発がどのような環境のもとで発生するかはA01によって、また、どんな現象を地表にもたらすかはA04によって研究される。噴火現象の理解に関する研究成果を火山災害の軽減にどう活用するかを考えるのは、A05の役割である。
研究項目の各々は計画研究を中心に組み立てられ、2003年度からは公募研究が加わった。計画研究に期待されるのは、新しい展開の可能性も常に念頭におきながら、大規模な装置の導入も含めた計画に沿って、一歩一歩基本的な枠組みを固めていくことである。それに対して、公募研究は自由な発想からそれを補い、各論的な研究にも踏み込んで、研究全体の幅を広げて欲しい。
領域に属する沢山の研究が、独自に豊かな成果を上げることはもちろん基本である。しかし、研究がばらばらに進められたのでは、領域全体で掲げる目標が曖昧になり、個々の研究の問題意識も薄まりかねない。各々の研究は、全体の目標をしっかりと見据えながら進めて欲しい。
全体の目標達成に向けて有機的な協力関係を保つ方法として、個々の研究成果を「噴火シミュレータ」に結集することを提案したい。噴火に向かう準備過程を記述する部分から、災害要因を評価する部分まで、この噴火シミュレータで定量的に予測できるようになれば、それは特定領域研究を象徴する成果となる。噴火予知や火山防災のツールとして使えるものができれば、社会への貢献は極めて直接的なものとなる。
噴火現象のシミュレーションは、近年かなり高精度なものが可能になったが、未来を予測する能力を持たせるためには、マグマの性質、計算の初期条件や境界条件などに、明確な物理的根拠をもたせる必要がある。領域の研究成果を結集して、「噴火シミュレータ」を構築することは、社会に対する貢献になるばかりでなく、学術的にも極めて興味ある成果となる。領域に属する各々の研究は、「噴火シミュレータ」との関係を意識することで、目的意識を一層明確にすることができるだろう。