研究テーマ

 
 
ウシ心筋チトクロムc酸化酵素のX線結晶構造解析

チトクロムc酸化酵素は、ミトコンドリア内膜に存在する呼吸鎖の末端酸化酵素で、チトクロムcを酸化し、分子状酸素を水にまで還元する。この酸素還元に伴ってプロトンを能動輸送し、プロトン濃度勾配を形成する。ミトコンドリアでは、この勾配を利用してATP合成酵素によってADPとリン酸からATPが合成される。現在までに我々は、本酵素の完全酸化型結晶を1.80オングストローム分解能、完全還元型を1.90オングストローム分解能、完全還元CO結合型(100K)を1.80オングストローム分解能、完全還元CO結合型(280K)を2.20オングストローム分解能、シアン結合完全還元型を2.05オングストローム分解能、NO結合完全還元型を1.80オングストローム分解能で構造決定した。この酵素は13種26サブユニットからなる膜蛋白質複合体で、分子量は約42万である。高等生物の膜蛋白質の最初の結晶構造解析である。引き続き酸素還元、プロトンポンプ機構を解明するために、水素原子位置を決定できる分解能で高分解能で構造解析を行っている。さらに自由電子レーザーX線を利用した時分割構造解析にも取り組んでいる。

 
ボルト ←詳しくはこちらをクリック

ボルトは、総分子量が約1000万で粒子サイズが40nm×40nm×70nmという細胞内で最大の分子量を持つ核酸-タンパク質複合体です。本粒子は、1986年に米国UCLAのL.H.Rome教授らによって発見されてから約25年経ちますが、本質的な機能は明らかになっていません。我々は2008年にラット肝臓より抽出したボルトの全体構造を2.8Å分解能で構造決定することに成功しました。その結果、ボルト外殻(樽型粒子)は、78個のMajor Vault Protein (MVP)の集合体で形成されていることが明らかになりました(39個のMVPが集まってお椀のような形をした半分のボルト外殻を形成し、2つのお椀が縁と縁を合わせるように会合することで完全な樽型粒子を形成します。)。また、立体構造情報からボルトが脂質ラフトに結合する可能性を示す事ができ、機能解明に向けた方向性を示すことができました。今後は、樽型粒子内部に存在するマイナーサブユニットも含めた完全なボルトの立体構造をより高分解能で決定することで、機能解明への道をさらに大きく切り開きます。

 

ギャップジャンクション

ギャップジャンクション(Gj)は、たくさんのGjチャネルが集合したもので、その 最小構成要素はコネキシンと呼ばれる4回膜貫通型蛋白質である。コネキシンは 6個集まってコネクソンと呼ばれるヘミチャネルを作り、それがさらに2つ向かい合うようにしてGjチャネルを形成している。Gjは、隣り合う細胞同士を接着し、直接的なシグナル伝達を担っている。具体的には分子量1200 Da以下の分子 (イオン、ヌクレオチド、ペプチドなど)を輸送することでGjを介したシグナルが伝達して、心臓の拍動(心筋細胞の同期した収縮)など、器官の働きを支えている。我々は2009年にヒトコネキシン26の結晶構造を 3.5 Å分解能で決定した。その結果、Gjチャネルの全体構造は和楽器の鼓のような形をしていることがわかった。また、チャネルの形成や機能に関わる重要なアミノ酸残基を明らかにすることができた。現在は、ヒトコネキシン26の孔の開閉機構の詳細を解明するために、高分解能での結晶構造解析を行っている。また、ヘミチャネルの構造やコネキシン43など他のコネキシンの結晶構造解析を行うことでそれぞれのコネキシンの機能発現機構を解明したいと考えている。

 

エクスポーティン

小さなnon-coding RNAの一つであるmicroRNAは、動物、植物、真菌類に至るまで、広範な生物種に存在する。microRNAは、相補的な配列を有する標的mRNAの安定性や翻訳効率を制御するほか、染色体に影響を与えることで発生や分化に関与する種々の遺伝子の発現を調整する。microRNAは、はじめに核内で数百塩基から数キロ塩基の長さを持つpri-microRNAとして転写される。pri-microRNAは核内RNaseⅢのDroshaによって3’末端2塩基突出ステム-ループ構造を持つpre-microRNA(~65nt)になり、RanGTP存在下において輸送因子exportin-5によって細胞質へと輸送される。輸送されたpre-microRNAは細胞質でmicroRNAとなり機能する。Exp-5:RanGTP:pre-miRNA複合体の構造をX線結晶構造解析によって決定し、Exp-5が約700種核内にあるpre-miRNAを特異的に認識し核外に輸送する仕組みを明らかにした。Exp-5:RanGTPおよびExp-5単体のX線結晶構造解析を行い核内でのpre-miRNA捕獲と核外でのpre-miRNAの解放の仕組みを明らかにすることを目指している。